2026.06.11 | コラム
相手の話を聞くことを仕事にした話
取引で終わる関係と、続いていく関係の違い
前回の連載の途中で、こう書きました。
「与えれば返ってくる」という言い方よりも、「ありがとうを返したくなる関係」のほうが続いていく、と。
書いたあとも自分の中に残っていて、もう少し言葉にしてみたいと思っています。続く関係と、どこかで止まってしまう関係を分けているものは何なのか。いま考えていることを書きます。
相手の話を聞くことを仕事にした話
独立したばかりの頃、自分は「話すこと」が仕事だと思っていた。ホームページを作る、提案をする、価値を伝える。だから打ち合わせでは、自分がどれだけうまく説明できるかばかり考えていた気がする。
ある時、ずっと契約に至らなかった経営者の方がいた。何度提案を変えても反応が薄い。正直、自分の力不足だと落ち込んでいた。あるとき雑談の流れで、事業の話ではなく、その人が創業した経緯や、うまくいかなかった過去の話をただ聞いていたことがある。特にアドバイスもせず、相槌を打ちながら聞いていただけだった。
その打ち合わせの最後に「今日は久しぶりに、ちゃんと話を聞いてもらえた気がします」と言われた。正直、拍子抜けした。自分は何も提案していなかったからだ。でも数日後、その方から「お願いします」と連絡が来た。決め手は提案内容ではなく、あの雑談だったと後で聞いた。
聞くことは、何もしないことではない
この経験があってから、自分の中で「聞く」という行為の位置づけが変わった。聞くことは受け身の作業ではなく、こちらから相手の状況や感情に関心を向け続ける、能動的な仕事なのだと気づいた。
経営者や個人事業主の方と話していると、多くの人が本当は誰かに聞いてほしいことを抱えている。売上の悩みだけでなく、決断の孤独さや、誰にも相談できない不安。ホームページの相談という入口ではあっても、実際に必要とされているのはその手前の「話を聞いてくれる人」だったりする。
自分はカウンセラーでもコンサルタントでもない。制作会社の代表として、あくまでホームページを作る仕事をしている。それでも、相手の話をきちんと聞かなければ、本当に必要なものは見えてこない。表面的な要望をそのまま形にしても、相手の事業には響かない。聞くという工程を飛ばして提案だけを急ぐと、結局は的外れなものになってしまう。
聞くことを仕事にする、というのは大げさな言い方かもしれない。ただ、自分にとっては、話すスキルよりも聞く姿勢のほうが、仕事の質を左右していると感じている。
独立を考えている人の中には、話し方やプレゼンの技術を磨こうとする人が多いと思う。自分もそうだった。もちろんそれも大事だが、それ以上に、相手が何を言おうとしているのか、言葉にならない部分まで拾おうとする姿勢のほうが、長く仕事を続けるうえでは効いてくる。
聞くことは、目立たない仕事だ。成果として見えにくいし、誰かに褒められることも少ない。それでも、聞いてもらえたと感じた相手は、不思議と次の一歩を自分から踏み出してくれる。自分はそのことを、あの日の打ち合わせで教えてもらった気がしている。
今日も、誰かの話を静かに聞くところから、仕事は始まっている。
「ありがとう」が往復する関係に、積み上がっているもの
続く関係には、一方通行ではない感謝があります。
こちらが「ありがとうございました」と言い、相手も「こちらこそ、あのときは」と返してくれる。その往復が、何かのきっかけがあるたびに何度でも起きる。これが、自分の感じている「続く関係」のかたちです。
では、そこに積み上がっているものは何か。
結果や実績ではないように思います。積み上がっているのは、相手の負担を、先に少しだけ引き受けた記憶です。頼まれる前に動いた。相手が困る前に手を打った。その小さな積み重ねが、お互いの中に残っていく。
自分はずっと、サービスとは相手の負担を肩代わりすることだと考えてきました。それは仕事の話だと思っていたのですが、人との関係でも同じなのかもしれません。
先に相手の負担を引き受けた回数が、そのまま「ありがとうを返したくなる」気持ちの厚みになっていく。そういう順番なのだと思います。
サービスとは、相手の負担を先に引き受けること
見返りを期待して引き受けると、それは取引に戻ります。期待せずに引き受けたものだけが、相手の中に記憶として残るのだと思います。
続く関係は、立派な実績ではなく、こうした小さな引き受けの積み重ねでできているように感じています。
自分が「ありがとうを返したくなった」とき
自分の話をします。
体を痛めてまともに動けなかった時期がありました。そのとき、頼んだわけでもないのに動いてくれた人たちがいました。「大丈夫ですか」と声をかけるだけでなく、こちらが言い出す前に、必要なことを先に進めておいてくれる。
そのときに自分の中に残ったのは、「借りができた」という感覚ではありませんでした。
もっと素直に、「この人たちに、いつか返したい」という気持ちでした。貸し借りの帳簿ではなく、返したいという気持ちのほうが先に立っていた。あの感覚が、たぶん「ありがとうを返したくなる関係」の正体なのだと思います。
演出された親切では、こうはならなかったはずです。見返りを前提に近づいてくる動きは、受け取る側にはなんとなく分かります。
そうではなく、ただ淡々と、こちらの負担を先に引き受けてくれた。だからこそ、返したくなった。自分がしてもらって嬉しかったことを、今度は自分が誰かにしていく。その連鎖がいちばん続くのだと、いまは思っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
石橋 恵太(いしばし けいた)
株式会社Libist 代表 | 千葉・松戸
レンタルサロン運営 / HP制作 / 電気・消防設備工事 / SaaS開発。
「労働に頼らない仕組みづくり」を自分で実践しながら発信しています。
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