2026.06.11 | コラム
得意なことで稼ぐという誤解
取引で終わる関係と、続いていく関係の違い
前回の連載の途中で、こう書きました。
「与えれば返ってくる」という言い方よりも、「ありがとうを返したくなる関係」のほうが続いていく、と。
書いたあとも自分の中に残っていて、もう少し言葉にしてみたいと思っています。続く関係と、どこかで止まってしまう関係を分けているものは何なのか。いま考えていることを書きます。
得意なことで稼ぐという誤解
「得意なことで稼ぐのが一番だ」という話を聞いたことがない人はいないと思う。独立を考えているとき、自分もそれを信じていた時期がある。得意なことを仕事にすれば、苦しまずに済むし、結果も出やすい。そう思っていた。
でも実際に仕事をしていくうちに、少しずつ違和感を覚えるようになった。
「得意」と「求められること」はズレている
自分はウェブサイトの制作をしている。技術的な部分はある程度得意だと思う。でも、クライアントが本当に必要としているのは「きれいなデザイン」でも「最新の技術」でもなく、「問い合わせが増えること」だったり「採用がうまくいくこと」だったりする。
得意なことと、相手が求めていることは、必ずしも一致しない。
自分が得意なことに集中しすぎると、知らないうちに「自分のやりたい仕事」を押し付けている状態になる。得意なことを軸に仕事を組み立てると、相手の課題よりも自分のスキルが先に立ってしまう。これは経営者としては危ういことだと、時間をかけて気づいた。
もう一つ、「得意なことが好きなこととは限らない」という問題もある。得意だから速くできる、ミスが少ない、そこまではいい。でも毎日それをやり続けることが苦痛になることもある。得意と好きを混同していると、仕事を続けるうちに消耗していく。自分にもそういう経験がある。
稼げるのは「求められていること」ができる人
長く仕事をしていて思うのは、稼ぎ続けている人は「求められることに応えられる人」だということだ。得意かどうかより、相手が何を必要としているかを正確に理解して、それに対して誠実に動ける人。
得意なことはあくまで手段であって、それ自体がゴールではない。
だから「得意なことで独立しよう」という考え方が完全に間違っているとは言わないけれど、それだけを軸にすると危うい。正確に言えば、「求められていることの中に得意なことを組み込む」くらいの順番で考えたほうが、現実には機能しやすい。
得意なことは、スタート地点のひとつに過ぎない。それよりも、誰のどんな困りごとを解決するのかを先に考える。そのほうが仕事は長続きするし、自分自身も無理をしなくて済む。
得意なことで稼ぐのは、入口としてはいい。でも出口を「求められること」に置いておかないと、どこかで行き詰まる。自分はそう考えている。
「ありがとう」が往復する関係に、積み上がっているもの
続く関係には、一方通行ではない感謝があります。
こちらが「ありがとうございました」と言い、相手も「こちらこそ、あのときは」と返してくれる。その往復が、何かのきっかけがあるたびに何度でも起きる。これが、自分の感じている「続く関係」のかたちです。
では、そこに積み上がっているものは何か。
結果や実績ではないように思います。積み上がっているのは、相手の負担を、先に少しだけ引き受けた記憶です。頼まれる前に動いた。相手が困る前に手を打った。その小さな積み重ねが、お互いの中に残っていく。
自分はずっと、サービスとは相手の負担を肩代わりすることだと考えてきました。それは仕事の話だと思っていたのですが、人との関係でも同じなのかもしれません。
先に相手の負担を引き受けた回数が、そのまま「ありがとうを返したくなる」気持ちの厚みになっていく。そういう順番なのだと思います。
サービスとは、相手の負担を先に引き受けること
見返りを期待して引き受けると、それは取引に戻ります。期待せずに引き受けたものだけが、相手の中に記憶として残るのだと思います。
続く関係は、立派な実績ではなく、こうした小さな引き受けの積み重ねでできているように感じています。
自分が「ありがとうを返したくなった」とき
自分の話をします。
体を痛めてまともに動けなかった時期がありました。そのとき、頼んだわけでもないのに動いてくれた人たちがいました。「大丈夫ですか」と声をかけるだけでなく、こちらが言い出す前に、必要なことを先に進めておいてくれる。
そのときに自分の中に残ったのは、「借りができた」という感覚ではありませんでした。
もっと素直に、「この人たちに、いつか返したい」という気持ちでした。貸し借りの帳簿ではなく、返したいという気持ちのほうが先に立っていた。あの感覚が、たぶん「ありがとうを返したくなる関係」の正体なのだと思います。
演出された親切では、こうはならなかったはずです。見返りを前提に近づいてくる動きは、受け取る側にはなんとなく分かります。
そうではなく、ただ淡々と、こちらの負担を先に引き受けてくれた。だからこそ、返したくなった。自分がしてもらって嬉しかったことを、今度は自分が誰かにしていく。その連鎖がいちばん続くのだと、いまは思っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
石橋 恵太(いしばし けいた)
株式会社Libist 代表 | 千葉・松戸
レンタルサロン運営 / HP制作 / 電気・消防設備工事 / SaaS開発。
「労働に頼らない仕組みづくり」を自分で実践しながら発信しています。
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