2026.07.06 | 事業と価値
サービスの値段の決め方:安すぎる金額には理由がある
取引で終わる関係と、続いていく関係の違い
前回の連載の途中で、こう書きました。
「与えれば返ってくる」という言い方よりも、「ありがとうを返したくなる関係」のほうが続いていく、と。
書いたあとも自分の中に残っていて、もう少し言葉にしてみたいと思っています。続く関係と、どこかで止まってしまう関係を分けているものは何なのか。いま考えていることを書きます。
サービスの値段の決め方:安すぎる金額には理由がある
独立してしばらく経った頃、同業者の人と話していて「なんでそんなに安いんだろう」と感じることがあった。スキルも経験も自分よりずっとある人が、自分より低い金額で仕事を受けていた。不思議だったし、少し怖くもあった。
その人が手を抜いているわけでもない。むしろ丁寧で、クオリティも高い。それでも安い。なぜかと考えていくうちに、値段というのは「自分がどこに立っているか」の表明だということが、だんだんわかってきた。
安い値段をつけるとき、人は何かを避けている
値段を低く設定するとき、たいていの場合は「断られたくない」という気持ちが背景にある。自分も最初はそうだった。高い金額を提示して「高いですね」と言われることが怖い。だから先に値段を下げて、断られるリスクを減らそうとする。
でもこれは、じつはけっこうコストが高い判断だと思う。安くすれば受注できるかもしれない。ただ、その案件をこなしながら「この金額では割に合わない」という感覚が積み重なっていく。そして疲弊したまま次の仕事を探すことになる。値段を下げてリスクを回避したつもりが、別の形で消耗している。
もうひとつ、安い値段には「自分のサービスへの自信のなさ」が出ることがある。これも正直に言うと、自分にも覚えがある。実績が少ない時期は特に、強気な金額を出すことに根拠がないような気がしてしまう。でも実績と値段は、必ずしも比例するわけではない。経験が浅くても、その人にしか出せないものがあれば、それは値段に反映していい。
値段は、誰と仕事をするかを選ぶ手段でもある
値段を上げると、来るクライアントが変わる。これは体感として、かなりはっきりある。安い金額で受けていた頃は、細かい要求が多かったり、コミュニケーションがしんどかったりするケースが多かった。値段を見直してから、そういう摩擦が減った。
これは「高い客が偉い」という話ではない。金額に見合う仕事を依頼しようとする人は、それだけ真剣に検討しているということだと思う。安さだけで選ぶ人は、安さだけで別の人に乗り換えることもある。値段は、関係の質にもつながっている。
自分が今どんな値段設定をしているかを振り返ると、そこには「怖さを避けているのか、それとも自分の仕事への評価として出しているのか」という問いが浮かぶ。どちらから設定した金額なのかで、仕事の中身もその後の展開も、けっこう変わってくる。
安すぎる金額には、たいてい理由がある。その理由が何なのかを自分で把握しておくことが、値段を変える第一歩になると思っている。
「ありがとう」が往復する関係に、積み上がっているもの
続く関係には、一方通行ではない感謝があります。
こちらが「ありがとうございました」と言い、相手も「こちらこそ、あのときは」と返してくれる。その往復が、何かのきっかけがあるたびに何度でも起きる。これが、自分の感じている「続く関係」のかたちです。
では、そこに積み上がっているものは何か。
結果や実績ではないように思います。積み上がっているのは、相手の負担を、先に少しだけ引き受けた記憶です。頼まれる前に動いた。相手が困る前に手を打った。その小さな積み重ねが、お互いの中に残っていく。
自分はずっと、サービスとは相手の負担を肩代わりすることだと考えてきました。それは仕事の話だと思っていたのですが、人との関係でも同じなのかもしれません。
先に相手の負担を引き受けた回数が、そのまま「ありがとうを返したくなる」気持ちの厚みになっていく。そういう順番なのだと思います。
サービスとは、相手の負担を先に引き受けること
見返りを期待して引き受けると、それは取引に戻ります。期待せずに引き受けたものだけが、相手の中に記憶として残るのだと思います。
続く関係は、立派な実績ではなく、こうした小さな引き受けの積み重ねでできているように感じています。
自分が「ありがとうを返したくなった」とき
自分の話をします。
体を痛めてまともに動けなかった時期がありました。そのとき、頼んだわけでもないのに動いてくれた人たちがいました。「大丈夫ですか」と声をかけるだけでなく、こちらが言い出す前に、必要なことを先に進めておいてくれる。
そのときに自分の中に残ったのは、「借りができた」という感覚ではありませんでした。
もっと素直に、「この人たちに、いつか返したい」という気持ちでした。貸し借りの帳簿ではなく、返したいという気持ちのほうが先に立っていた。あの感覚が、たぶん「ありがとうを返したくなる関係」の正体なのだと思います。
演出された親切では、こうはならなかったはずです。見返りを前提に近づいてくる動きは、受け取る側にはなんとなく分かります。
そうではなく、ただ淡々と、こちらの負担を先に引き受けてくれた。だからこそ、返したくなった。自分がしてもらって嬉しかったことを、今度は自分が誰かにしていく。その連鎖がいちばん続くのだと、いまは思っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
石橋 恵太(いしばし けいた)
株式会社Libist 代表 | 千葉・松戸
レンタルサロン運営 / HP制作 / 電気・消防設備工事 / SaaS開発。
「労働に頼らない仕組みづくり」を自分で実践しながら発信しています。
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